♣ソフィの現地講座レポート♣

 開講日:2016年4月26日
 午前中は京都国立博物館「禅―心をかたちに」、午後は妙心寺天球院で
 「狩野山楽・山雪の障壁画の複製障壁画」を鑑賞。このレポートはその複製画についてです。同行解説はソフィ「日本美術史講座」を担当・京都嵯峨芸術大の佐々木正子教授。

☆天球院の方丈障壁画は1631年に京狩野の祖・狩野山楽と後継者・山雪が制作した。
文化財の保存と未来への継承事業に取り組むキャノンと京都文化協会が5年をかけて計56面の複製プロジェクトに取り組み、4月11日に完了記念式典が行われた。5月10日まで同院で一般公開。
 原本は京都国立博物館で保存する。

Report・・

レプリカ、という言葉に「本物ではないからつまらない」という変な偏見をもっていた。

また複製、という言葉には「作品が制作された当初のぴかぴかした状態」なのだろうと早とちりした。

このほど、妙心寺天球院の方丈障壁画が複製されたので一般公開に合わせて鑑賞会をしたら・・?という佐々木先生のお誘いを受けたときも、実は「きっとコンピュータが、当時の色彩を再現して見せて、それが高精度なカラーコピーで見られるのかな」、くらいに考えていたのだ。
 さて「朝顔の間」に入ったとたん、「これって本ものですよね?」と思わず言ってしまった。ここだけにはまだレプリカではなく本物が残されているのだと本気で思ったのだ。想像していたような制作当時はきっとこんなふうだったのね、という目に新しいものではなく、平成28年にこの空間に座ったら見られるべき絵、そのものだったからだ。
 長い年月の間にこの部屋を訪れた人が動く微妙な空気によって付いたくすみや汚れ、経年による劣化も含めた復元作業がなされている。もちろん元の絵がもっていた絵の技術もこれまた恐ろしく忠実に再現されている。たとえば、鉄線が巻き付く間垣は本物ではレリーフのように盛り上げて描かれているが、このレプリカも本当に盛り上がっている、ように見える。
印刷なのだからそんなはずはないのだが…。佐々木先生は「このレプリカはね、目をつぶった方が(触ってやっと平らだと確認出来て)レプリカだと分かるのよ」と言われた。本当にそうだ。
 特に金箔部分の再現技術はすごい。金という色は印刷では正確に出ないので、レプリカの金箔は金箔工芸士がすべての箔を手で貼っている。襖全56面を一面、一面。あるときは廊下からの光の方向や陰影を確かめ、あるときはそれぞれのふすまの位置による汚れの違いまで確認しながら再現された箔技法は特許を取ったものだそう。監修者である佐々木先生は一流の技術を持った人たちに対して5年をかけ、歴史を感じさせる箔のレベルを目指して「鬼になったつもりで」、極く細部までもう少し、もう少しと言葉にならない駆け引きをして調整していった。「絵はモチーフが主役で箔は脇役。でもその箔が全体を支えている」。データは機械で正確にとれるけれど、元のもの+経年+光の色というような微妙な部分は人でなくてはできない。機械と人の仕事が成した傑作。きっとこのままずっと残っていくだろう。
それにしても想像するだけで凄すぎる!妥協をしない監修者とそれに応える技術者との文化財、いや美の保存に賭けるバトル。聞かなければ知る由もなかったが、これからはせめて「レプリカ」という言葉だけで「見るのをやーめた」と言わないことにしよう。